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Introduction of regional study groups in Japan

九州地区研究会

2021年度 九州地区研究会報告

日時:2022年3月30日(水) 14時~16時
会場:佐賀大学本庄キャンパス対面及び、オンライン(Zoom)
テーマ:コロナ禍における留学・国際交流の実際
~大学生の意識と「新しい」留学体験者の声
発表者:①『佐賀大学生の留学に対する意識調査』石松弘幸氏(佐賀大学)
    ②『韓国へ留学した日本人学生の声』
      山田直子氏(筑紫女学園大学)・塩澤美帆氏(筑紫女学園大学文学部3年)
    ③『日本へオンライン留学した韓国人留学生の声』
      小林浩明氏(北九州市立大学)・張 寶英氏(仁川大学教育学部日本語教育学科4年)

対面参加者:4名
オンライン参加者:11名

 3月30日(水)、多文化関係学会九州地区研究会が「コロナ禍における留学・国際交流の実際~大学生の意識と「新しい」留学体験者の声」をテーマに、佐賀大学本庄キャンパス及びオンライン(Zoom)にて行われた。今回の目的は、昨年度の研究会で共有された実践課題を基に、実際に学生の意識や生の声を聞くことで、改めてコロナ禍における国際教育交流について考えることが目的であった。
初めに、石松氏の発表では、佐賀大生を対象とした留学に対する意識調査の結果が報告された。この調査は、国際交流推進センターが企画し、2021年11月に実施された。学内の個人メールに向けて案内し、Formsで回答を依頼する形であった。スマホを使って回答できるように設問や選択肢に視覚的な工夫が凝らされていた結果、回答率が平均26%と高くなった。調査では「海外渡航経験」に関して6割が「ある」と答えたが、高校時代の観光等が多くを占め、入学時からコロナに影響を受けた世代だと感じた。また、「留学への関心があるか」に関する項目では、「はい・いいえ」の双方が拮抗していた。留学の希望期間としては、2週間~1年未満の短期間を希望する学生が多かった。続いて、留学に興味がない理由として、「語学力に不安/金銭面/海外に行くのが怖いから」があった。さらに、「理由が解消されたら、留学したいか」という設問に対し、半数の学生が「したくない(46%)」と回答した結果について興味深く感じられた。「留学支援」に関する設問では、佐賀大における英語力強化等の支援についての認知度が、学生全体で3割程度であったという。しかし、佐賀大生の英語力向上への関心は高く、その理由としては、就職に有利だとする回答があった。調査の結果からは、渡航経験のない約半数の学生にとっては、特に留学や海外研修が身近に感じられていないことが明らかになった。今後の課題として、1)英語力に合わせたプログラムの提供、2)全学でCEFRB1レベルに向けた英語力レベルアップの必要性、3)カリキュラムの調整による学部間の不公平の是正、4)既存の大学以外の海外協定稿の開拓、5)国際交流や海外留学に伴う学習環境の充実、を挙げられた。
次に、山田氏のご発表では、まず、筑紫女学園大学の交換留学の現状について説明があった。一時期は完全に交換留学が停止されていたが、2022年2月から派遣再開となっている。依然として受け入れは停止しているが、オンラインでの交換留学は若干名行われている状況だという。その後、『韓国へ留学した日本人学生の声』として、文学部アジア文化学科3年の塩澤美帆氏を紹介された。塩澤氏は、幼い頃から韓国のサブカルチャー(ドラマ、KPOP)に興味を持ち、留学を考え始めたという。言語だけではなく文化を肌で感じ、意見を交わし、日本を客観的に捉えられるようになりたいと留学を決意された。学内選考を経る過程もコロナに振り回されながらも、様々な活動に参加しながら準備し、最終的に決定したのは12月中旬だったそうである。この機会を無駄にしたくないという思いで両親や周囲を説得された。「コロナ、隔離施設、高額な航空券、PCR陰性証明書」という問題に向き合い、無事に寮へと移動された。留学先の仁川でも感染者は多く、マスク、検温が欠かせず、授業も一部はオンラインである。しかし、対面の授業ではアクティブラーニングもある程度実施されていると述べられ、対面での留学意義があることを感じた。塩澤氏は、まだ留学途中であり、残りの留学期間も、対面での授業や日本サークルで現地の方と交流する機会を大切に過ごしたいと述べられた。
最後に、小林氏の発表では、北九州市立大学における留学の概要について話された。張氏に代表されるコロナ禍の留学は、結果的に完全オンラインのみとなったが、元来そのように計画されたプログラムではないということである。その後、張氏が『日本へオンライン留学した韓国人留学生の声』をテーマに発表された。張氏は、2019年から準備を始め、コロナの影響を受け2020年は休学、2021年からオンライン交換留学を開始した。留学の目標は、日本文化の体験・日本語能力向上・日本人の友達を作ることにあったという。初めの1学期は、学習への機会、時間管理、費用面での長所が感じられた。しかし、授業がない夏休みは日本とのつながりがなくなったような気持ちを抱き、自身が韓国の大学で受けていた遠隔授業とオンライン留学との違いは何か思い悩むようになったそうである。画面の向こうの対面学生達との距離感を感じつつ入国を無期限で待つことで、心理的に疲れた状態にもなった。しかし、そのような違和感をオンライン交流の機会をたくさん持つことで徐々に乗り越えられたという。結果として、日本語学習においては問題がないと判断し、オンラインでも人は通じることを学んだそうである。オンライン留学について考えた時、これも新たな「留学」の形だという結論を示された。
 以上5名の発表の後、質疑応答の時間が15分設けられた。日本から韓国への留学に関しては増加傾向にあり、韓国への関心の高さに両親の影響があることが議論された。また、留学への意欲を持ち続け、休学してでも留学することを選択肢として持っている学生が少なからず存在することがわかった。このように、コロナ禍における留学への意識と、実際の留学体験者の声を聴くことができた非常に学びの多い研究会であった。
報告者:清水順子(北九州市立大学)