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全国の地区別研究会のご紹介

Introduction of regional study groups in Japan

関東地区研究会

2021年度第1回 関東地区研究会報告

日時:   2021年9月25日 13:30-15:00
会場:   Zoom
講師:   小山健太先生(東京経済大学)
石黒武人先生(立教大学)
報告者:武田礼子(成城大学)

【話題提供1】
「多文化組織の日本人リーダーの学習〜異文化マネジメント研究とダイバーシティマネジメント研究の視点から〜」
東京経済大学コミュニケーション学部 小山健太先生
9月25日に本研究会は Zoom会議にて、20余名の参加のもとに開催された。
前半は小山先生が多文化組織の日本人リーダーに関して講義をされた。

まず小山先生が捉える統合的な枠組みである異文化マネジメント研究とダイバーシティマネージメント研究の流れに関する説明が行われた。前者においては、これまで国民文化研究 (Hofstede等)が主流たった研究も、国単位で文化を論じるのではなく、異なる価値観のぶつかり合いにより創発の要素を含むイノベーション研究へシフトしてきた。例えば、平均的な作業効果が出ると言われる単一文化グループの職場がある一方、異文化グループで構成される職場の作業効果は非常に効果的、あるいは非常に非効果的(Adler等)など両極化しているため、意図的に行う異文化マネジメント(文化背景の異なる上司と文化が問題点を認識し、立場を超えた相互学習を通して、組織開発に至る)の必要性を語られた。

さらにダイバーシティマネジメント研究におけるインクルージョンと同化の相違点について、個性の発揮の高低差と職場からの受け入れの高低差もマトリックスを用いながら先行研究の説明が行われた。それによると、職場に受け入れられているが個性を抑えている状態が「同化」、職場に受け入れられていて個性も発揮できている状態が「インクルージョン」である。そして多くの場合、日本企業では外国人社員が同化される場合が多いという。従って、日本人上司がインクルージョンの視点で外国人部下に対応することで、職場での異文化マネジメントを効果的に行えると指摘された。

小山先生の調査では、大手日本企業で10組の日本人上司と外国人部下のペアを対象としたインタビューが行われた。前述の異文化マネジメントの枠組みで見られた問題点には、高文脈コミュニケーションの日本人上司からの説明が言語化されていないことで、外国人部下が疎外感を感じることが挙げられる。次の段階である相互学習のきっかけには、上司がダイバーシティの重要性、さらに部下の疎外感に気づくなど認識変化が必要である。その結果、上司から外国人部下に対する言語化を通して、事業目的や戦略を説明することで部下のインクルージョンの感覚が高まり、更に上司が部下の個性を発揮できる役割を与えることがイノベーションに繋がり、また部下も自らが職場におけるグローバル化の役割を担う changing agent になり得るマインドも持てるとのことである。

小山先生は、最後にグローバルリーダーシップ論 (Bird) に沿った上司の特性について述べられた。通常のリーダーの特性(ビジネス推進力とメンバー管理)以外に、グローバルリーダーとして必要な探究心、またグローバル思考や柔軟性も含む、上司が自らを変えることの重要性が改めて語られた。

【話題提供2】
多文化組織 / チームにおける日本人リーダーの動的思考プロセスとその継承〜変化対応力〜を視野に入れて
立教大学異文化コミュニケーション学部 石黒武人先生
後半では石黒先生が、外国人部下を持つ日本人リーダーに関する講義において、日本企業の多文化や多国籍化が異文化ミスコミュニケーションや異文化ストレスに繋がるとの問題提起をされた。紹介された2021年のマイナビの調査では、国籍を問わず優秀な人材確保のために外国人留学生を採用する企業は6割程度あるものの、異文化の価値観・発想力を取り入れる企業やダイバーシティを推進する企業は合わせて2割に過ぎないことが明らかになり、その中で「多様性を最小化した形で、日本の企業に適応してもらう」のが採用する企業の意図だと石黒先生は推察された。またアンケート調査 (島田・中原, 2014)の結果では、日本人上司による外国人社員の精神支援(例:励ます)や文化面の支援(例:日本文化の説明)がない場合、所属企業への愛着も弱く、職場満足度も低下し、これが企業の受け入れ体制が不十分であることとも関係するようである(石黒, 2017)。また小山先生も説明された日本人社員の高文脈コミュニケーションが外国人にわかりにくく、専門性を伸ばすことでキャリアを積みたい外国人には、日本企業が採用する多くの部署での業務を経験させるジョブローテーションが理解されにくいなど、外国人社員が日本企業に定着しにくい要因にもなっている。

また多文化で機能していると自認する日本人上司の動的認知プロセスに関して石黒先生 (2017, 2020) は「制限付きのダイバーシティ促進」が見られ、同じ企業内でも経営陣と現場の間で外国人人材の活用に関して認識の乖離があるとのことである。例えば、現場では日本語のシステムを使って外国人人材も業務が行えるためには、日本人同僚の支援も必要だが、その同僚の負担の増加もある。そのため、日本人上司は認知(視点を移動して思考する力)・情動(現状に対応する力)・行動(メンバー尊重)の3つの動的思考プロセスを通して外国人社員の緩衝体になることで、コミュニケーションの問題が少ない状態を経験しているようであり、多様性に関する豊富な知識と経験も不可欠である。例えば、コミュニケーションが取れる上司は、外国人部下の国籍・人種・民族・職種・世代などの属性のパターン認識もできるが、複数の属性を通して相手のパターン認識をするなど、視点を移動し、部下を多面的に理解しようとしながら、業務とのマッチングなどを行うようである。また相手によってコミュニケーションの方法も切り替えるなど変化対応もでき、カルチャーギャップ(日本人から見た違反)にも柔軟に対応し、外国人部下の理解が深まることにも繋がる。

今後は日本人上司が同じチーム内で、培ってきた認知的志向性を次世代のリーダーに継承することが課題となるが、その方法として制度的継承ツール(例:週報や月報などのフィードバック)を通した学びやダイバーシティ研修の参加があげられ、さらに個々の実践を通して次のリーダーに伝える(時間・コンテクストの共有)ことも可能である。またリーダーの意識の持ち方(変化対応力)により、特に外国人社員への関心度を高く持つことも重要である。最終的には職場の中で居場所を作るだけではなく、「魅力的な文化の生成」というメンバーに応じたチーム作りのための思考様式や行動様式の提示を実践することで、多文化チームの運営を円滑に行うことが期待される。

【ディスカッション】
石黒先生より「外国人を雇用する日本の組織は、いかなる環境を整備し、外国人と共に働く日本人(リーダー)はいかなる能力を持っているべきか?」という問いかけより、ディスカッションが始まり、異なる背景を持つ参加者の発言を通して、ダイバーシティの多様化が垣間見られた。長年メーカーで海外駐在経験を持つ参加者は、大企業においてダイバーシティを目指すのであれば、外国人社員の増員だけではなく、影響力のあるポストで活用するなどで、成果を上げて社内に認知させることで組織が変わるとの視点が共有された。また小山先生は、性別・国籍など表層的ダイバーシティと価値観など深層的ダイバーシティの相違点に触れ、日本企業におけるダイバーシティが前者に留まることが多く、個人の個性を重んじる後者のダイバーシティインクルージョンまでを考慮する必要性が説かれた。さらに石黒先生の研究に関連づけ、外国人社員をリーダーとして育成し、次世代リーダーへの継承をどのように行うかという課題も小山先生より指摘があった。課題がある一方で、石黒先生より、成功事例では、企業に教育や研修に投資する体力があり、社員を海外派遣後にリーダーに据えるなどの特徴を持つことが示された。

また別の参加者は元留学生へのインタビューを通して、職場環境の違い、つまり大企業と比較すると地方の中小企業の場合、ダイバーシティへの認識が不十分であるとの指摘もされた。さらに地方の企業に勤務する社員と、東京都内の外資系勤務の外国人社員のデータを比較することの困難さなど研究を進める上での課題があることも判明した。それに対し、石黒先生より、中小企業等と大企業双方に関する質的データの集積、また質的研究で生成された概念が他の事例に転用可能(transferable)であるか否かを含めた知の共有を行うことが提案された。

企業のダイバーシティを調査するにあたり、対象(企業の業種・所在地・規模、外国人社員数、日本人上司の経験)も多様化しており、画一的な研究を行うことが決して容易ではないこと、そして発表された2人の先生と参加者で交わされた示唆に富むディスカッションが質疑応答の深さに繋がったと言える研究会であった。参加者が立場を超え、日本企業におけるダイバーシティをさらに促進されることを希望しつつ、手探りが進む現場の課題に対し、どのような対応ができるかを探求する時間が共有された。今回の内容が参加者の間で留まるのではなく、現場、特に日本人上司に還元されることにより、今後の日本企業におけるダイバーシティ促進に繋がることを願う。