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Introduction of regional study groups in Japan

関東地区研究会

2013年度第1回 関東地区研究会のお知らせ

関東地区研究会(2013年5月12日@青山学院大学)

報告1タイトル:「英語授業による日本人大学生のELFオーナーシップ」
第一話題提供者:柴田 亜矢子(しばた・あやこ)氏 椙山女学園大学国際コミュ ニケーション学部 (代読者 猿橋順子氏)
コメンテーター: 猿橋 順子 (さるはし・じゅんこ)氏 青山学院大学国際政治経済学部
報告者: 新崎隆子 (東京外国語大学)

この発表の目的は、椙山女学園大学で実施された英語授業を、日本人英語学習者がどのようにELF(English as a lingua franca)のオーナーシップを獲得するかという視点から検討し、大学教育における英語授業の可能性を探ることである。本発表ではELFを第一言語が英語ではない話者によって使われる接触言語で、母語話者と非母語話者の会話における使用も含むと定義した。英語のオーナーシップは、国際共通言語としての英語を「誰のものか」という視点で捉えた概念である。これを獲得することにより、安定した社会的、国際的地位を獲得できるが、そのためには高い熟達度を達成し、英語を自分の長所と捉え、さらに多様な英語話者に通じる能力を身につけなければならない。

調査の対象となった英語授業は、論理的なスピーキングおよびアカデミック・ライティング能力の強化と、非英語母語話者教員による多様な英語使用の役割モデルの提示という二つの目的を掲げている。発表者は参加者へのインタビュー調査結果から、この授業によりELFを使って国際的な活動ができるという認識が生まれたとし、ELFオーナーシップを獲得するためには、英語運用への自信を付け、ネイティブ信仰や完璧主義を脱却することが役立つと結論づけた。

今回の報告はオーナーシップの要素のうち「英語の熟達度」に焦点を当てているが、自信を持って英語が使えるようになればオーナーシップ獲得に役立つのは当然である、その点では従来型の授業の目的と変わらない。この授業の参加者はもともと日常会話に問題がなく留学経験がある。それはすなわち、母語話者教員の指導によってある程度の熟達度に達した後に、非母語話者教員の指導を受けて多様性の意識が育ったことを意味するのではないかと感じた。

コメンテーターの猿橋順子氏からは大学の英語による授業を捉える枠組みとして、言語政策研究の知見が応用できるとの提案がなされた。日本語母語話者への英語授業にはスキルの指導だけでなく、イデオロギーや社会的な需要、政治的判断など複雑な要素が含まれるため、「誰が」「何の目的で」「どのような手段で」行うのかなどを言語政策理論の枠組みで整理することが大変有用であると思った。

報告2

タイトル:「東アジアでの英語による授業の取り組みを読む」
第二話題提供者:渋谷百代(しぶや・ももよ)氏(埼玉大学大学 准教授)
報告者:武田礼子(国際基督教大学大学院)

文科省は2013年5月21日に「グローバル人材育成」を目的とした「スーパー・グローバル・ハイスクール」を5年間で約100校設置する方針を発表し、数学・理科も英語で教えることを想定している。マレーシアで10年前に導入された同様の政策は昨年廃止された。本発表では、マレーシアでグローバル化を前提に2003年に導入された理数科目を英語で指導する政策に関して、マレーシア国立大学4学部(教育学部、理工学部、情報工学部、建築工学部)の学生500人を対象に実施されたアンケート調査について報告された。

本報告では、マハティール政権下で発表された理数科目を英語で指導する政策 (PPSMI) の導入から廃止に至るまでの経緯が説明された。イギリスの旧植民地であるマレーシアでは、グローバル化への対応、英語力及び理数科目の強化を目的として、2003年にPPSMIが導入された。その後、中等学校(2007年)、初等学校(2008年)でも導入されたが、英語力水準の向上が見られず、2012年に廃止された。

導入時に小学生だった学生500人の回答は専攻により異なる。理数系科目の学習言語に関しては、教育学部の約半数がマレー語を希望する一方で、理工の約6割、情報工の7割強、建築の8割が英語を希望した。マレー語と英語の二カ国語での教育に肯定的な回答者(教育・理工の7割)よりも英語だけの指導が効果的だと情報工・建築の約8割は回答している。また英語で理数系科目を学ぶことに関して全体の約7割が問題はないと回答しているが、学部別ではインド系学生が多い建築の8割が問題ないとしているのに対して、教育学部は4割程度にとどまる。結論として全体的には理工系科目を英語で学ぶことは効果的と捉える傾向があるが学部別の差もあり、マレー語での指導も必要とされていることを示唆した結果となった。

日本ではグローバル化が謳われているが「グローバル人材育成」に具体性がない。高校の教育現場でも理数系教員が英語で教え、逆に英語教員が理数系科目も教えれば解決することではない。アメリカでのスペイン語二カ国語教育が児童・生徒の学力及び英語力向上に貢献しない前例や、マレーシアのPPSMI廃止も含め、文科省が参考すべき世界の事例は多い。