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全国の地区別研究会のご紹介

Introduction of regional study groups in Japan

関東地区研究会

2012年度第1回 関東地区研究会報告

会場:桜美林大学四ツ谷キャンパス 4階Y405 (Obirin University Yotsuya campus, 4F, Room Y405)

第一話題提供者:白水繁彦氏(駒澤大学)(Shiramizu Shigehiko, Komazawa University)
発表テーマ:「エスニック・ムーブメント研究:ハワイ沖縄系の事例を中心に」
“Ethnic Movement : a case of Uchinanchu movement in Hawaii”

ハワイには「マルチエスニックハワイ」という前提がある。特に、人的交流や文化接触が進み、様々な局面でのハイブリッド化(=ローカル化)が進行している状態にある。これを多文化融合社会という。
その中で、今回のテーマでもあったオキナワンは、ハワイの日系社会とは別に独立したプレゼンスを確立している。戦前の移民一世、二世は、主流社会と日系社会から二重の差別を受けてきた。しかし80年代に入り、彼らのオキナワンとしてのエスニック・アイデンティティは、それまでの隠されたものから外向きの顕示的なものへと転換した。この頃のアイデンティティ変容の動き、第二次ウチナーンチュ・ムーブメントの主力を担ったのは三世であった。世界中から労働者として移民を受け入れてきた結果多民族社会となったハワイで、日系とは別にオキナワンとしてのプレゼンスを獲得するに至るまでの苦労や努力、エネルギーは想像を超えるものがある。
このように、差別を乗り越え多民族社会ハワイの一員としての地位を築いたオキナワンのようなエスニック集団は他にも存在する。しかし、最も印象的だったのは、こうしたエスニック集団がプレゼンスを高め各自の文化を主張することに対し、先住ハワイ系の反応が非常に消極的であるということだ。つまり、あまりよく思っていない。かつては主役だったはずが、多民族社会ハワイにおける一構成要素という位置づけになってしまったためだ。他のエスニック集団がそれぞれのアイデンティティを確立させ表舞台に登場する一方で、先住ハワイ系は主役落ちしてしまった。
先述したように、現在ハワイでは様々な局面でのローカル化が進行している。そして私は、現在の多文化融合社会ハワイにおけるロコという集団が、ハワイのみならず日本における多文化共生への一つの答えになるのではないかと考えている。また、民族の違いを超えたロコという存在こそが、ハワイが先駆的な多文化社会のモデルである所以なのではないかと思う。しかしながら、「ロコ」と一くくりにしても、それぞれが持つ民族的出自への意識は強く、先に挙げた先住ハワイ系と他のエスニック集団のような問題も存在する。
私が今後「多文化共生」や「多文化主義」をキーワードに考えていく上で、真に多文化が共生する社会とは何か、またそれは実現可能なのか、ということを強く考えさせられた。
(寺門みのり 獨協大学外国語学部英語学科卒)

第二話題提供者:伊藤哲司氏(茨城大学人文学部) (ITO Tetsuji, Ibaraki University)
発表テーマ:「多文化に寄り添う『円卓シネマ』という方法論」
“Round-table-cinema workshop for intercultural understanding”

このセッションは大まかな二部構成になっていた。まずは伊藤氏の研究概要と授業実践についての報告、次は参加者たちによる実際のワークショップ経験であった。
伊藤氏は異文化理解のために「円卓シネマ」ワークショップを提案・実践してきた。「円卓シネマ」が紡ぎだす対話では次のようなことが起こると考えられた。まず題材となる映画には「Life」が描かれているがゆえに、決して浅い話にならない。次に、対話によって、互いの文化・社会的な事柄についての理解が進むことが多い。さらに、「何が解りえないかが解りあえる」というメタレベルでの理解に達することもある。そして対話が次なる対話を喚起するということである。「円卓シネマ」を始めるきっかけになったのは韓国の映画『友へ(チング)』であった。そこに描かれた「友情」に対する解釈や認識において日本人と韓国人の間に違いが存在することに気づき、その違いを対話を通じて理解しようと試みたのである。
ベトナムと日本を結ぶ「円卓シネマ」の授業実践では、短編日本映画『トトオ』を素材に日本人学生、ベトナム人学生、留学生、社会人などが参加、2011年12月と2012年1月に両国で行なわれた。いくつかの成果もあったが、日本人参加者の英語力、通訳者・翻訳者の介入などの問題点や「文化中立型」の素材である『トトオ』を用いて「対話の中で何らかの差異が立ち上がる」という境地まで、いかにしたら到達できるかなどの課題も明らかになった。
後半のワークショップでは、その映画、『トトオ』―1975年(昭和50年)の大阪を舞台に、そこで生活する3人家族のささやかな日常生活を描いている―を観た後、「金魚」の象徴、最後のシーンにおける妻の不在の意味、映画のテーマについて参加者全員の話し合いが行なわれた。
(ペク・ソンス 神田外語大学)