MENU

全国の地区別研究会のご紹介

Introduction of regional study groups in Japan

関東地区研究会

2011年度第1回 関東地区研究会報告

場所: 立教大学

第一セッション:多文化の視点からみる東北大震災と今後の課題(年次大会企画 震災ワーキンググループ 「被災地の声―みえてくる多文化社会の課題と挑戦―」のプレセッション)

9月の年次大会で開催する震災関連ワークショップ「被災地の声―みえてくる多文化社会の課題と挑戦」のプレセッション。まず被災地でのボランティア活動の経験を紹介する。続いてワーキンググループで収集した情報を提供した上で、参加者による意見交換を行う。(大震災関連JSMRワーキンググループ特集の記事もご参照ください。)
This is a preconference session for the Tohoku Earthquake Workshop in the Annual Conference of JSMR held in September. The session starts with a volunteer’s report by Mr. Saneyuki Maekawa, followed by discussion among participants. Some information from Working Group members will be shared as a guide for discussion. (Please see also the feature articles on the JSMR Working Group on Disasters)
前川仁之氏(立教大学)からの震災現場でのボランティア報告
Saneyuki Maekawa, Rikkyo University、Volunteer’s Report from the Devastated Site
渋谷百代(埼玉大学)Momoyo Shibuya, Saitama University ,The Tohoku Earthquake and Issues around Migration

災害の復興にどう関わるか、その答えは人により様々だ。が、何か自分ができることで直接支援したい、と思いを行動に移すボランティアは、日本でも着実に増えている。ボランティア活動は阪神淡路大震災をきっかけに定着した感があるが、今回の東日本大震災でもこれまでに蓄積されたノウハウを生かしながら、復興への力になってきた。 第1セッションは、そんなボランティア活動を宮城県で行った前川氏の体験談から始まった。前川氏は、撮影した写真で塩竈や多賀城の被災状況を紹介しつつ、自らのボランティア活動について説明。ボランティアのニーズが掘り起こされていないところに、個人で声をかけながら情報収集して活動する中で、野球のグローブを学校から譲り受け被災者の子供達に届けた経験などを披露した。と同時に、(「被災地」「準被災地」など)被災地間にある意味の序列ができてしまっている現状に対する危機感も伝えられた。 続くディスカッションでは、参加者がそれぞれの視点から活発に意見交換を行った。特に、記録・実態の把握の重要性やその一手法としてのオーラルヒストリー収集、風評・無理解・偏見等による差別問題やそれを改善するために何をどう伝えて行くべきかを検討する必要性、また、具体的支援への関わり方や研究者の役割についても議論された。被災地に押し掛け被災者に負担を強いる研究者の是非はあるが、やはり真摯に問題に向き合い、関わる、という姿勢が大切だろうということも確認された。 東日本大震災に対し多文化関係学会としてどう関わるのか考えることを課題として共有したいとディスカッションの場を今回の研究会に設けていただいたが、その結果、いくつかの研究上の焦点も見え始めてきた。年次大会でのワークショップで更なる具体的な展開を期待したい。
文責:渋谷百代 埼玉大学経済学部

第二セッション:朝鮮半島への多視点的アプローチ

話題提供者(1):マーク・E・カプリオ氏(立教大学)(Mark E. Caprio, Rikkyo University)
発表テーマ:「複合的視点から見た朝鮮半島問題」
“Viewing Korean Peninsula Issues through Multiple Lenses”

拉致問題、日本近海へのミサイル発射、核兵器開発など、北朝鮮は日本の安全保障及び東アジアの安定を脅かす存在となっている。マスメディアに登場する北朝鮮は、「サングラスをかけた金正日」、「大規模な軍事パレード」、「マスゲーム」と紋切り型であり、なかなかその実情に迫ることは難しい。必然的に、北朝鮮問題も手詰まり感が漂ってくる。
カプリオ氏は、北朝鮮問題をこのような画一的な見方から考えるのではなく、複合的な視点から深く広く重層的に『理解』することで、問題解決のオプションが増えてくると提言している。複合的な視点とは、「絶対的」と「相対的」、「結果」と「歴史・過程」、「短期的」と「長期的」、そして「ローカル」と「グローバル」など異なる二軸の組み合わせのことを指している。 一例として「絶対的」と「相対的」を取り上げると、北朝鮮の国民総生産(GDP)に占める国防費は約25%であり、日本は1%となっているが、これを絶対額で比較すると北朝鮮が年間100億ドルに対して日本は430億ドルとなっている。また、「結果」と「歴史・経緯」については、2010年11月23日に発生した延坪島事件を取り上げ、日米のマスコミが延坪島の位置関係(付近は南北双方が未だに領有権を主張している)や、事件に先立って付近で米韓の合同演習が行われていたことについては説明していないことが指摘された。 以上のように複合的な視点から北朝鮮問題を分析することで、問題を『理解』し、解決策に到ることが出来るというのが、カプリオ氏の説明の趣旨である。
私は、職業柄、外国政府の官僚と交渉することがあるが、問題が起きると、ついついその問題を解決するための交渉を如何にまとめるかに集中してしまう。今回の話は、相手側の論理を理解することの重要性はもちろんではあるが、それ以外に時間軸、空間軸、比較するモノサシをそれぞれ違った値から見ることの重要性を説いたもので、問題分析・問題解決の有益なヒントであった。
文責:舘山丈太郎(独立行政法人国際協力機構)

話題提供者(2):イ・ヒャンジン氏 (立教大学)( Lee Hyangjin, Rikkyo University)
発表テーマ:「日本における韓国大衆文化と在日」“The Korean Wave and re/presentation of Koreans in Japanese popular culture”

2003年頃から「韓流ブーム」が始まったが、日本における韓国大衆文化の受容は、現在では、もはや「ブーム」などではなくなり、定着化の一路を辿っているように見える。『冬のソナタ』のペ・ヨンジュンに始まり、東方神起やKARAに至っては、小学生の間でも人気が高い。本発表において、李氏は、日本人を対象に行なったアンケート調査やインタビュー調査を基に、韓国の大衆文化が日本でどのように受容されたか、そして、そのことによって、日韓の文化への認識がどのような変容を遂げてきたのか、に関して、主に議論を展開された。
特に興味深く思われたのは、韓流ブームの成立の背景に、社会的にマージナルな存在とされてきた中年女性の現実があったという点である。男性にはポルノ、子供にはアニメ等の娯楽ジャンルがあるが、中年の女性向けには娯楽ジャンルが存在していなかった。その隙間を埋めたのが韓流ドラマだったということである。家庭のためだけに生きてきたような多くの中年女性にとって、韓流は一気に情熱を注ぐ対象となった。
現在では、韓流は中年女性から若者へと広がりを見せ、日本人の日常の一部となっていると言っても過言ではない。そのような状況下、20代以下の若者・子供達の韓国観は、これまでの世代とは異なっているという。韓国でも、民主化をリードした60年代生まれの人々と違い、今の20代の若者には、日本に対するコンプレックスがない。現在、若者たちは、その善し悪しは別として、歴史にとらわれない、新たな道を歩み始めているということであろう。
最後に、大衆文化が、その枠内にとどまらず、広く社会へ波及していく可能性にも触れられた。鉱山での朝鮮人の強制労働の痕跡を残す、京都の丹波マンガン記念館の再建に際し、韓国のユンドヒョンバンドが歌った映像の中に、「過去の中に明日がある。痛みの中に希望がある」という印象的な歌詞があった。大衆文化の社会への影響は決して小さいものではなく、日韓関係において重要な役割を担い得るものであることが示されている一例と言えよう。楽しい雰囲気の中、映画や歌の映像を実際に見ながら、貴重なお話を聞かせていただけたことに感謝申し上げたい。
文責:瀬端 睦 立教大学大学院異文化コミュニケーション研究科