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全国の地区別研究会のご紹介

Introduction of regional study groups in Japan

北海道・東北地区研究会

2011年度 北海道・東北地区研究会報告

北海道東北地区研究会では、2011年8月6日(土)、「異文化接触再考:ミクロとマクロの視点から」というテーマのもと、2名の先生方による発表とフロアを含めた討議が行われた。
まず、最初の話題提供者である、青森公立大学の山本志都氏は、「異文化接触における相互作用を学習体験化するコミュニケーションを考える」というタイトルで発表された。同氏は、まず、異文化間能力についての研究においては、必要な知識や能力がいかに学習されるかという学習過程そのものを概念化するような研究は比較的軽視されてきたという問題点を指摘された。また、現在まで支配的となっている、「何がどのように学習されるか」といった細分化による分析法から脱し、「異文化接触が学習過程そのものである」という統合的視野から研究を進める必要性を論じられた。さらに、自身が外国人国際交流員(CIR)と共に働く人々を対象として行った研究例をもとに、「配慮型アサーション」「情報更新による調整」「異文化情報の収集」「自文化情報の発信」「初心者フォロー」「非公式的な場の活用」「親密化」などが異文化間の学習を促進する方略として使われていたことを明らかにした上で、最後に、異文化接触の体験を学習機会として最大限活用することができるようなコミュニケーションの探求をさらに進めていく重要性について指摘された。
発表を通して、まず実際の異文化接触を「学習機会」として捉える視点は大変興味深いものだと感じられた。多文化化が進む日本社会においては、このような視点から進められる研究に対する必要性は益々高くなることが予想されよう。今後、本研究から導き出された各方略と外国人の視点からの異文化能力との関連性の探求など、異文化間能力の解明につながる研究の進展の必要性を強く感じた次第である。
2人目の話題提供者である、兵庫県立大学の松田陽子氏は、「オーストラリアにおける多文化主義政策の課題と可能性」について発表された。発表ではまず、多文化・多言語社会オーストラリアの現状と、「多文化主義」政策の概説から始まり、その後白豪主義から多文化主義への政策転換に関しては、その理念や、背後に潜むさまざまな国内外の要因に対する分析などを交えながらわかりやすく解説された。また、その変容に関しては、市民社会からのボトムアップ及び、政府のトップダウンの力、国内の社会・経済・文化的要因、国際環境要因の各観点から詳細に考察された。さらに、現時点では、多文化主義の柱である「多文化の尊重、社会的公正、経済効率化」の三つの観点をめぐりさまざまな葛藤や批判があり、それらの課題に対する解決策の模索が続いていることを指摘された。最後に、これらの議論を踏まえ、多文化共社会に向けて日本が直面している課題について議論された。
オーストラリアの多文化主義についての背景景色が薄い筆者のような人間にも大変わかりやすい発表であった。1時間という短時間で複雑な問題の全容が把握できたような錯覚に陥るほど明快に解説して頂き、知的満足を味わうことができた。しかしながら、日本という土壌に多文化主義は根付くのだろうかと考えた瞬間、あまりに大きな課題に暗澹とした気分にならざるを得なかった。今後、多文化関係の研究者に求められているのは個々人の方法で実際の社会にかかわり、行動し、意見するという積極的な姿勢ではないかと強く感じさせられた。
当日は、こじんまりとした和やかな雰囲気の中、二名の話題提供者を迎え、参加者を交えて活発な質疑応答及び意見交換を行うことができた。遠路はるばるお越しくださった松田先生と山本先生はじめ、熱心な参加者の皆さんのおかげで、研究会らしい非常に濃密なそして充実した数時間を過ごせたことは幸いである。ここに、研究者のお二人の先生方及び参加者の皆さんに感謝申し上げたい。