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全国の地区別研究会のご紹介

Introduction of regional study groups in Japan

関西・中部地区研究会

2010年度第2回 関西・中部地区研究会報告

場所: 龍谷大学 大阪梅田キャンパス
テーマ:「対人コミュニケーションにおける自己開示、自己提示」
私たちは日常的な他者との相互作用において、自分自身の欲求や感情のおもむくままに発言したり、行動したりしているわけでなく、常に他者の目を意識して自分自身の表出行動を観察し、その社会的適切性を判断してコントロールしています。今回の研究会では、中川氏、守崎氏から自己提示や自己開示をテーマに、日韓のビジネスパーソンのコミュニケーション比較分析や自己開示の概念化について学習する機会となりました。報告概要は以下です。

報告提供者:中川典子(Noriko Nakagawa)(流通科学大学・サービス産業学部)
表題:「日本人ビジネスパーソンと韓国人ビジネスパーソンの自己開示に関する比較文化的研究」(Cross-cultural Study between Japanese and Korean Business People on Self-disclosure)
プロフィール:流通科学大学サービス産業学部観光・生活文化事業学科教授。米国ポートランド州立大学大学院スピーチ・コミュニケーション学科修士(MA)。関西学院大学社会学研究科社会学専攻(博士)。専門は異文化コミュニケーション、対人コミュニケーション、異文化心理学。著書に「異文化シミュレーション、バーンガ(Barnga)を通じて異文化接触を擬似体験するー気づきから行動変容へ」『人間関係のゲーミングシミュレーションー共生への道を模索する』北大路書房(2007)、Instructor’s Manual and Test Bank (IMTB) for Culture and Psychology, Wadsworth Public Co., 2008、等。
概要:
本発表は、比較文化心理学的視点から、日本と韓国のビジネスパーソンの自己開示という対人行動における類似点と相違点を、開示者と開示相手との職場の地位に反映された関係性、および、自己開示の場としての酒席という2つの状況要因に着目しつつ、探索した発表だった。
発表の構成は4つの研究、すなわち、研究1:日本人ビジネスパーソンを対象にした自己開示調査-開示相手の職場の地位、開示の場、開示者の年代差の観点から-、研究2:日本人ビジネスパーソンと韓国人ビジネパーソンを対象にした自己開示に関する量的調査(1)-開示相手の職場における地位、開示の場としての酒席、および自己開示の話題の観点から-、研究3:日本人ビジネスパーソンと韓国人ビジネスパーソンの自己開示に関する量的調査(2)-対象者にとって自己開示、仕事仲間との会話、酒席がもつ意味-、研究4:日本人ビジネスパーソンと韓国人ビジネスパーソンの自己開示に関する質的調査からなっていた。
研究1は、1995年4月に発表者が行ったアンケート調査に、研究2と3は、1998年4月から11月に日本の関西圏とソウルで行ったアンケート調査に、研究4は2004年6月から2005年2月に日本の関西圏とソウルで行ったアンケート調査に基づく分析であるというように、発表は発表者が長年にわたり蓄積した研究の総括であり、その凝縮度は発表時間内では消化しきれないほどだったが、先行研究を踏まえ反省を加えた問題設定や、これまで、集団主義的な「アジア人」というカテゴリーで括られてきた日本人と韓国人に対し、「その微妙かつ重要な社会行動における類似点と相違点」を明らかにしようというチャレンジは極めて興味深いものだった。
全体を通して、「話題:趣味・嗜好、仕事、人格、家族、身体、社会問題、金銭」や、部下、同僚、上司といった開示相手の職場における地位、酒席、開示相手の年代などが、自己開示傾向に影響を与えることが示され、日本人が確かに「飲みニュケーション」していること、日韓において共に酒席では広範な話題において自己開示度が高いことが実証された。
発表では各アンケート調査やインタビュー調査の結果が詳細に分析され、日韓の共通点や相違点が示されたが、共通点において、特に印象深かったのは、日韓共に「タテ」意識の強い伝統的価値観が崩れつつあるのではないかという指摘である。
相違点としては、韓国人は社会問題に対する関心度と自己を明確に表現することを好む傾向にあること、金銭に対する態度の相違、日本人が、より自分を語るという行為において対人志向的、場依存的傾向が強く高コンテキストであるのに対し、韓国人はより言語への依存度が高く、日本に比べ低コンテキストである可能性の指摘が興味深かった。
筆者の研究地域は中国であり、中国に置き換えて見るとどうなるのか考えさせられることも多く、本発表から多くの示唆を受けることができた。
文責:神田外語大学 花澤 聖子

報告提供者: 守﨑 誠一 (Seiichi Morisaki) 神戸市外国語大学
表題:「自己呈示に関わる比較文化研究」(Cross-Cultural Studies of Self-Presentation)
プロフィール:神戸市外国語大学外国語学部国際関係学科准教授。University of Kentucky: College of Communications and Information Studies修了(Ph.D.)専門は異文化間コミュニケーション学。
概要:
守﨑先生は、当日お風邪を召されており、「今回の発表はわかりにくいかもしれないが、風邪なのでご容赦願いたい」とのご挨拶から本発表は、始まった。実はこれがご発表のテーマである自己呈示の方法のひとつで、具体例を持って参加者の心をぐっと掴み守﨑ワールドである自己呈示に関する文化比較研究の難しさと面白さに引き込まれた感じであった。
自己呈示について実証的に日米比較するには、自己呈示の概念を明確にするだけでなく、文化比較研究にともなう種々の注意点に留意する必要がある。それを先生ご自身のご研究の知見を踏まえて解説していただいた。その際に特にいくつかの仮説を立て、その仮説が立証できなかった事例を取り上げ、「なぜか」と参加者に問いながら説明されたのが印象的であった。すでに分かっていることを簡潔に教えてもらうのではなく、先生ご自身の試行錯誤の経緯を一緒に追うことで、研究アプローチそのものも理解できる講演であった。
(文責:関西大学 久保田真弓)