MENU

全国の地区別研究会のご紹介

Introduction of regional study groups in Japan

北海道・東北地区研究会

2010年度 北海道・東北地区研究会報告

場所: 北星学園大学 第2研究棟地下1階第一会議室
テーマ:「新しい研究へのまなざし」
今回は、3名の話題提供者が、「新しい研究へのまなざし」というテーマのもとに、それぞれ個性豊かで熱気あふれる研究発表を行った。以下は、3名の話題提供者の発表タイトルと概要である。

話題提供者(1):石黒武人氏 (Taketo Ishiguro)明海大学
発表素材:「多文化関係研究における対話的構築主義アプローチの有効性と限界」
Usefulness and Limits of Dialogic Constructionist Approach for the Study of Multicultural Relations
話題提供者(2):佐藤美希(Miki Sato)札幌大学
発表素材:「学問分野としての翻訳研究(トランスレーション・スタディーズ)と日本への展開の可能性」
Translation Studies as an Academic Discipline and Its Potential in Japan
話題提供者(3):河原歳也 (Toshiya Kawahara) 北星学園大学
発表素材:「メディアの役割と今日的課題:ジャーナリズム日米比較再考(報道の現場から)」
The Role of Media and Its Contemporary Issues: US-Japan Comparison Reconsidered (A View from a Journalist)

石黒氏は、質的研究の一手法として最近注目されている対話的構築主義に依拠したライフストーリー・インタビューとデータ分析の方法について発表された。具体的には、まず、調査協力者を様々な社会関係の集積の場にいる者と仮定し、インタビューを通じて協力者と調査者が相互行為的に構築するストーリー(言語的表象)を手掛かりにして、協力者の認識世界とその背景にある文化を理解しようとする質的研究法であるとされる対話的構築主義の基本的捉え方について初学者にもわかりやすく概説された。その後、自身の行った多文化組織(英語学校)に働く人々に行ったライフストーリー・インタビュー記録の紹介を織り交ぜながら、このアプローチが持つ有効性ならびに研究を進める上で遭遇する問題点や限界について議論された。
次に佐藤氏は、主としてヨーロッパで始まった翻訳研究(トランスレーション・スタディーズ)の流れを分析、概観し、日本での研究の現状について報告された。具体的には、1970年代 以前の学者たちによる翻訳研究から始まり、翻訳の文化的展開、翻訳規範の構築に向けた動き、さらには、2000年以降の社会学的アプローチに向けた動きなど、翻訳理論構築に向けての研究動向について概説された。最後に、この分野の研究は端緒に着いたばかりと言わざるを得ない日本での翻訳研究の流れと現状について報告された後、現在日本以外で関心が高まっている社会学的アプローチを応用した翻訳研究の可能性について、近年の翻訳出版状況との関連から議論された。
最後は、日本で数少ない英文ジャーナリストとして活躍された経歴をもつ河原氏が話題提供された。氏は、ジャーナリストとしての長年の経験を通して培った洞察力を基に、日米のジャーナリズムのあり方を比較文化的な視点から議論された。具体的には、新聞の発行部数、社説での論調、ジャーナリストの身分職種、職業観、大学の教育制度などについて具体例を引きつつ、日米のジャーナリズムがその文化的、歴史的背景に多大なる影響を受けていることを比較対照しながら解説された。最後に、日本独自の記者クラブ制度の存在など、日本のジャーナリストが取り組むべき問題点の指摘をして、話を終えた。
質的研究法、翻訳研究、ジャーナリズム比較研究と、学際的な当学会にふさわしく様々なアプローチからの話題提供となったが、それぞれの発表で当該分野に深い関心を持つ熱心な参加者の皆さんのおかげで活発な議論ができ有意義な研究会となった。
(長谷川典子)