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全国の地区別研究会のご紹介

Introduction of regional study groups in Japan

九州地区研究会

2010年度第1回 九州地区研究会報告

場所: 九州大学・伊都キャンパス比文・言文教育研究棟第8ゼミ室

テーマ:「グローバルリテラシー(国際対話能力)の実践と検証」
話題提供者:谷雅徳氏(関西大学)

今回の九州地区研究会は「グローバルリテラシー(国際対話能力)の実践と検証」と題して、コミュニケーションとは何か、グローバルリテラシーとは何かについて考えるというものだった。谷雅徳先生が示されたグローバルリテラシーの真髄は、相手を理解しよう、相手に伝えようというエネルギーであった。講義は「言葉に頼って本当の意味での国際的な対話ができるのであろうか」という谷先生の問いかけから始まり、グローバルリテラシーとは何かについて、具体的な実践例を挙げながら先生が示し、最後に参加者全員で議論するという形で進んだ。実践例は、谷先生が越前屋俵太時代に経験されたものであり、ここでは今回のテーマを最も顕著に表しているものをとりあげる。
越前屋俵太時代に、フランスの首相が「日本人は蟻のようだ。小さな家に住んで、毎日せっせとひたすら働いている」という失言をしたという出来事があった。この発言は日本人の尊厳を傷つける発言であり、当時日本、フランスの両国で問題となり、外交問題に発展するのではないかまでと思われていた。そのような状況の中で、谷先生は日本のテレビ局から「フランス首相の発言に対して物申すような企画」の依頼を受けた。そこで谷先生が行った企画は、日本人である谷先生が蟻の着ぐるみを着てフランスに乗り込み、フランス国民、ひいては首相自身に「日本人は本当に蟻だと思うか」について日本語でインタビューするというものだった。アポイントなしで首相官邸に乗り込んだ蟻の格好をした日本人は、もちろん首相との面会を許されるわけもなく門前払いされるという結果に終わった。しかし、その後この突撃取材は「蟻の格好をした日本のコメディアンがフランス首相の失言に対して抗議すべく首相官邸を訪れた」というニュースとしてフランス全土で報道され、この蟻の格好をした日本人は一躍有名になった。このユーモアを取り入れた方法によって、日本側の怒りを伝えるという目的は果たせたのであった。この実践例から、国際対話の場面では流暢に言語を駆使することよりも、自分のメッセージをきちんと伝えること、相手のメッセージをしっかりと理解しようとすることが大切だと示された。また、メッセージのやりとりには、時にユーモアが非常に有効な潤滑油として機能することがあるということも同時に提示された。
今回の先生のご講演では、グローバルリテラシーにおいては、相手としっかりコミュニケーションをとろうというエネルギーが重要であるということを教えていただいた。参加者の大半が日本語教育を専門とする者であった今回の研究会において、「言葉を越えたコミュニケーション」というグローバルリテラシーの視点は新鮮であり、コミュニケーションの根源的なあり方を再認識させてくださるものだった。
文責:藤美帆(九州大学大学院比較社会文化学府院生)