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全国の地区別研究会のご紹介

Introduction of regional study groups in Japan

関西・中部地区研究会

2010年度第1回 関西・中部地区研究会報告

(今回は異文化コミュニケーション学会関西支部合同研究会とした)

場所: 龍谷大学 大阪梅田キャンパス
テーマ:「多文化社会に求められる言語教育」

話題提供者(1): 松田陽子 (兵庫県立大学経済学部)
発表素材: 「オーストラリアの言語教育政策の重層性―多文化主義の視点から」(Multilayered structure of Australian language-in-education policies: Focusing on Multiculturalism)
「多文化社会に求められる言語教育」というテーマのもと、松田先生にはオーストラリアの言語教育政策に関するご自身の20年間に渡る研究の集大成をご披露いただいた。まず、1970年代の創成期から現在に至るオーストラリアの多文化主義の変容について、NPL(言語に関する国家政策)、ALLP(オーストラリアの言語・リテラシー政策)、NALSAS(アジア言語文化特別教育プログラム)という3つの言語政策を通して語っていただいた。ここで、これらの政策が政策決定機関により「トップダウン」で決定されたものではなく、コミュニティや学校関係者、言語問題関係者などによる社会の多様なニーズから生まれた「ボトムアップ」の力、および、これら双方の架け橋となった人々やネットワークの「媒介力」により成立したことを知り、多文化社会オーストラリアの原動力を垣間見た思いがした。
他方、多文化主義の柱の1つである「経済的効率性」が、経済的に重要なアジアの言語・文化の習得に焦点を置くアジア重視政策に影響を与えているとの指摘があったが、多文化主義のもう1つの柱である「社会的公正(平等)」と今後どのようにバランスをとっていくのかは興味深い課題である。
また、1990年代後半頃から広く使われるようになった「異文化間言語学習」という学習パラダイムの中で紹介された「第三の場」という理論は、相手(他者)の言語文化だけではなく、学習者(自己)自身の言語文化への理解を促し、相互交流の場(第三の場)で双方にとって適切なコミュニケーションを可能にする異文化間コミュニケーション力を醸成しようとする考え方であり、異文化間コミュニケーションで言われる「第三の文化」に通じる視点であると感じた。
最後に、松田先生のこのテーマに対するほとばしるばかりの情熱とその真摯なご研究の姿勢に深く感銘を受けたことを記したい。
文責:中川典子(流通科学大学)

話題提供者(2): 友沢昭江(桃山学院大学国際教養学部)
発表素材: 移動する子どもの言語教育―日本型の移民社会の可能性との関連において」(Language education of “migrating” children ? searching for an immigrant society of “Japan model” )
人口の減少に歯止めがかからない日本においては、「人口の減少分を外国人の受け入れで補うことが『活力ある社会を維持する道』」ではないかと提言する坂中英徳氏(移民政策研究所)の議論を踏まえ、日本が「育成型」移民社会を目指すとすれば、日本における外国人の子どもの言語教育が大変重要な意味を持ってくる。
国際的責務、歴史的経緯、労働力不足、経済協力などの様々な理由で日本は移民を受け入れてきてはいるが、母語と日本語の「二言語環境にある子ども」は、多文化化が進む日本社会の「資産」として理解されるのではなく、一般的に問題視されることの方が多い。日本語話者への急速なシフトによって家庭内でのコミュニケーションに軋轢を抱えているとか、日本語で行われる授業についていけなくなり学力低下を引き起こしている、などである。日本語指導が必要な外国人児童・生徒に対する明確な言語教育の施策が、日本型移民社会の実現を可能にするための一助となるのではないかとの指摘があった。
報告者:金本伊津子(桃山学院大学)