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全国の地区別研究会のご紹介

Introduction of regional study groups in Japan

関東地区研究会

2010年度 関東地区研究会報告

場所: 立教大学

話題提供者(1): 平山修平 青山学院大学 (Shuhei Hirayama, Aoyama Gakuin University)
発表素材: 医師と患者のポジショニング “Physician-patient positioning in their face-to-face communication”

医師と患者の関係は、通常平和的な状態からスタートする。しかし、医師を信じ安心してすべてを任せる状態の後に好ましくない結果が生じた場合には、患者は医師の行為やモラルを疑い、不信を抱き、感情的に激しく批判する状態に陥る。一方、医師も患者の権利意識が極度に高まると、フラストレーションや無気力感に苛まされ、むなしさなどの情動が生じ「医師崩壊」といわれる現象が進んでいく。
このようなプロセスを辿る原因は、一般に医師と患者の医療に関する価値観の違いにあると考えられてきた。しかし、平山氏は両者の情動的プロセスそのものに焦点をあて、これまでとは異なる視点でそのメカニズムを明らかにした。 平山氏によると、このプロセスには患者の感じる「シェイム」が大きく関与しているという。患者の感じるシェイムとは、1)病を患って生じるシェイム、2)医師に威圧されて生じるシェイム、そして、3)医師の弁明に対して感じるシェイムで、これらのシェイムを医師との間に繰り返し感じ続けるうちに、両者の葛藤が一気に深刻化するという。
また平山氏は、これら患者のシェイムに対応する3つのアイデンティティー(1.「病を持つ者」、2.「被治療者」、3.「消費者」)を想定し、医師と患者間の葛藤の理論化も試みている。これらのアイデンティティをSheffの部分総体的推論を用いて分析し、医師が患者の消費者としてのアイデンティティのみに対応し防衛的な反応を示せば、患者の他のすべてのアイデンティティが影響を受けて傷つき、結局患者が医者への「依存から批判」へと一気にその態度を変化させると結論付けている。
今回の研究結果が医療に貢献できることとして、平山氏は「対話自立型」の葛藤解決法や「シェイムの安全な放出方法」のためのコミュニケーション・トレーニングなどを提唱しているが、これらは医療現場だけではなく、異なる属性を持つ他の集団、例えば教師と学生、上司と部下、先進国と発展途上国などにも広く活用でき、この新しい視点を取り入れた異文化コミュニケーション研究が今後も期待される。
文責:穐田照子(桜美林大学)

話題提供者(2): 石川准(静岡県立大学)(Jun Ishikawa, Shizuoka Prefectural University)
発表素材: 「テクノロジーとアイデンティティ」 “Technologies and Identity”
石川先生は、ご自身が全盲でありながら、障害を持つ者の自立した生活を支援するためのソフトウェアとその他支援機器の開発、サポートに取り組んでいる。支援技術(Assistive technology)における障害者向けテクノロジの開発者vs.ユーザー、また異なる技術アプローチ間におけるポリティクスについて、主に視覚障害者向けソフトウェアの開発、読書支援技術と歩行支援技術の事例を紹介しながらお話くださった。
障害者によるパソコン操作を実現可能にするソフトウェアは、ユーザーだけでなく開発とサポート担当者も障害者であり、それぞれが対立する。ユーザーから寄せられる苦情は、原因を切り分ける情報が不明確なために、サポート側が解決策を迅速に提示できずに生産性が低下する。また、開発者がサポート窓口を兼務することにより負担を強いられることもあった。いかにしてユーザーの要望に応えつつ、開発者を守ることができるのかという問題が根底に存在する。
読書支援技術と歩行支援技術においても視点の相違による対立がある。読書支援には、OCRソフトを通じて音声を聞く聴覚サポート機能、iPadやKindleなどの書籍読み上げ機能、録画機能も装備した「しゃべるテレビ」などがある。歩行支援においても、点字ブロック、ホームドア、GPS、電子タグ等のアプローチがあるが、それぞれが対立している。どの支援技術においても単独のアプローチだけではアクセシビリティが低いが、ユニバーサルデザインと支援技術の双方の協同によって向上し、より良く実現する。例えば、居場所がわからない時に周囲の人に聞くよりも、これら技術の応用によって自ら把握できることこそが大切だと石川氏は主張した。
米国で開発されたiPhoneには音声読み上げ等の障害者向け技術が搭載されていることを、石川先生の実演を通して初めて知った。日本においても制度化し、そのような端末が障害者の方々に多く提供されることを期待する。
文責:久保田佳枝 (立教大学大学院異文化コミュニケーション研究科博士後期課程)