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全国の地区別研究会のご紹介

Introduction of regional study groups in Japan

関東地区研究会

2009年度第2回 関東地区研究会報告

場所: 立教大学

話題提供者(1): 能智正博(東京大学)
発表素材: 「質的分析の教育―異文化のテクストを読む姿勢を教える」 Teaching qualitative analysis: Approaches to reading intercultural texts
「大学で文化をどのように教えるか」というテーマであったが、大学で教鞭を取られる先生方だけでなく大学院生の参加も多く、質的研究がさまざまな分野で関心を集めていると改めて感じた。能智先生は、質的研究をどのように進めて行くか、質的研究を進めるにあたって何が重要か、学生や院生の指導という視点から解説してくださり、ご講演後にはさまざまな立場から質問が寄せられた。
言葉とは単なるコードではなく文脈によって多義性を持つため、質的研究のはじめの段階では文脈の中のデータに向き合いテクストを自由に読むことが大切となる。2、3人のグループでブレイン・ストーミングして気になる点を見つけ、さらにデータと対話しながら理解を深めるうちに読み手側も変化し、胃袋が大きくなるという。自分の枠組みの変化を記録しておくことも必要である。質的分析では、「解釈学的円環」と呼ばれるこのようなテクストと研究者の対話が基本となる。
「ラベリング評価ゲーム」という先生の授業の一端もご紹介いただいた。グループに分かれ、各ラベルについて4人が一斉にAからDのカードで評価を下す。こうして他人の評価を知ることは、良いラベリングとはどういうものか、学生が考えるきっかけになるという。
質的研究ではデータと真摯に向き合うことが大事であり、データととことん「戯れる」ことによって、ダイナミックな視点の移動という研究の醍醐味を味わえることを教えていただいた。
文責:津田ひろみ(立教大学大学院異文化コミュニケーション研究科院生)

話題提供者(2): 田中共子 (岡山大学)Tomoko Tanaka, Okayama University
発表素材: 「質的心理学研究を用いた文化の研究方法とその指導」 Using and teaching qualitative psychological methods in researching culture
岡山大学の田中共子先生は、研究管理と研究法の指導に関する御自分の教育実践の要点とプロセスを、集まった会員に対して惜しみなくまたエネルギッシュに披露してくださった。
まず、文化を文脈性のある磁場として捉えると、文脈性の解読に向いていてかつ既存の研究系譜から離れた発見に焦点をあてやすい質的研究は文化研究との親和性が高い、という認識からお話が始まった。その前提にもとづき、実際の学生指導では、学生の志向と能力を考慮し量的研究と質的研究のどちらかの適切な研究法を提示し、たたき台に基づいた添削を指導の基本型とされているとのことである。
論文作成過程全体の指導プロセスも説明され、学生が明確な「地図」をもって研究にあたることが可能になるシステムを田中先生が提供されていることがわかる。学生が全体図を把握できるよう論文作成から掲載までのプロセスを可視化する、論旨の構成を図やアウトラインとして描かせる、論文に題をつけ論旨の明確化を図る、研究実現性に関しては忌憚ない見解を示し学生にありがちな研究万能感をコントロールすることなどが示された。
田中先生のお話は情報量が多くここにとても全てを書くことはできないことが残念だ。学生の指導にあたる者にとって非常に具体的かつ示唆に富み、お話し下さった田中先生に感謝申し上げるのと同時に、教員が自身の教育プロセスを振り返り言語化して次の指導に活かすことの重要性を再認識した機会でもあったことを読者の皆様にお伝えしたい。
文責:赤崎美砂(淑徳大学 )