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全国の地区別研究会のご紹介

Introduction of regional study groups in Japan

九州地区研究会

2009年度 九州地区研究会報告

場所: 九州大学伊都キャンパス比文言文棟

第1部:「福岡県における移住女性支援と日本語教室開設支援について」 -子どもを連れて、地域で交流の場―
話題提供者: 松崎百合子氏(NPO法人女性エンパワーメントセンター福岡代表、「婚外子差別をなくし戸籍制度を考える会(ここの会)」世話人・石川多美子氏(九州中国帰国者支援・交流センター非常勤講師)
コメンテーター: 貞松明子氏(佐賀大学留学生センター非常勤講師)
本報告では、まず松崎氏より、女性エンパワーメントセンターの「女性の人権が尊重され、みんなが共に生きる地域と世界をめざす」という理念に基づいた活動として、女性と子供のためのシェルター、多言語ホットライン、アジアの女性に学ぶ外国語教室、日本語教室、フェアトレードなどの多岐にわたる活動が紹介された。なかでも、日本語教室開設支援について詳細な報告が行われ、日本語教室開設の背景として、福岡県内に外国人が散住しており、田舎では日本人男性に嫁いだ移住女性の割合が高いという現状が指摘され、移住女性の孤立化を防ぎ、移住女性間にネットワークをつくることが日本語教室の目的のひとつであると述べられた。また、都市部では既に外国人向け日本語教室は運営されているが、地方にはまだ教室がなく、開設にあたっては、①日本人講師の確保、②交通・広報の難しさ、③家族・地域の理解を得ること、などの地方特有の課題が挙げられた。
次に、石川氏から、日本語教室開設のためのボランティア講師募集から、教室開設、運営まで、また、日本語教室の現状に関する報告が行われた。日本語教室開設事業としては、2007年度に田川、柳川、2008年度に八女、朝倉、うきは、の合計5か所で行われた。日本語教室の役割としては、①生活するための日本語の力をつける、②生活情報の収集、③友達づくり、が挙げられ、ボランティア教師には、教えるのではなく共に学ぶ、学習者に寄り添う姿勢が求められるが、教室運営に関しては、お手伝いとしてではなく、自らが作り上げるという主体性が求められている。日本語教室の活動状況としては、各教室ごとに学習者の特性、ニーズに合わせた活動が行われている。今後の課題としては、各教室へのサポート強化、また、地域の日本語教育をボランティアまかせにするのではなく、国の施策として取り組んでいくよう、行政への訴えかけが必要であると述べられた。発表を通して、松崎氏、石川氏の移住女性に対するあたたかいまなざしと支援活動に対する熱い想いが伝わり、移住女性支援活動の意義が強く感じられる報告であった。
(文責:安高紀子 九州大学比較社会文化学府院生)

第2部:「日本語学科におけるテレビドラマ教材の使用に関する一考察―中国と韓国を比較して―」
話題提供者: 姚瑶氏(九州大学大学院博士後期過程)
コメンテーター: 谷之口博美氏(別府大学非常勤講師)
本報告は、前半の盛り上がりを調整する意味も兼ねてやや駆け足で発表された。内容は中国と韓国の日本語学科学習者及び教師を対象としたテレビドラマ教材の使用状況に関する調査報告で、ドラマ教材使用の有効性を実証するための基礎研究のひとつとして中韓両国の日本語学科におけるドラマ教材使用の実態とニーズを明らかにするためにアンケート調査を行ったものであった。結果は以下の4点が明らかになった。
①学習者側の調査結果から見ると中国も韓国もドラマ教材の使用を強く希望している。②教師側の調査結果から見ると中国はドラマ教材使用の必要性を感じているのに対して、韓国は必要性が少ないと考えている。③ドラマを視聴する際に中国の学習者は「日本語コミュニケーション」を重視するのに対して韓国は「ドラマのストーリー」を重視している。④ドラマ選択時の中韓の差は、中国の学習者は「社会問題」と「家族愛」に関するドラマに人気が集中するのに対して韓国の学習者は「純愛」を選んだ人が最も多かった、ということであるが、発表時のパワーポイントからは調査結果の違いが生じる原因や中韓のドラマ選択時の差が(示されたのかもしれないが、コメンテイターをつとめた筆者にとって)若干読み取りにくく、質問とかぶってしまった観もあった。後日要約を拝見した折、当日の討論としっかり絡めていなかったことがまだまだ力量不足かと反省されたが、今回から始まったこのコメンテイターという制度は発表者と聴衆者という二項対立ではなく、さらに別の視点を提示することでより両者をつなげていける可能性を含んでいるように思え、今後の研究会としての発展が楽しみに思われた。姚瑶氏の今回の調査も、将来どのように学習者のニーズに合わせ教室活動が行なわれていくべきか、コミュニケーション能力を高めるためにはどう使用すべきかなどの課題が示唆され、これからが期待される基礎研究に思われた。
(文責:谷之口博美 別府大学非常勤講師)