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全国の地区別研究会のご紹介

Introduction of regional study groups in Japan

九州地区研究会

2008年度第2回 九州地区研究会報告

場所: 九州大学 六本松地区キャンパス

題目:「異文化」をテーマにした授業の試み―世界のアニメ作品(Animated Tale of the world)を使った実践から得られた授業指針―
話題提供者:谷之口博美氏(別府大学非常勤講師)

本発表では、別府大学で行われた授業の実践報告をもとに、「異文化」をテーマにした授業のあり方について議論がなされた。日本で勉強する留学生の中には、日本人学生との交流がほとんどなく、異文化交流の機会が持てない学生も存在する。そのような背景のある中、留学生に対する日本語の授業に異文化コミュニケーション教育を取り入れることが試みられ、その効果が報告されるとともに、「異文化」をテーマにした授業の指針が示された。
授業では、宮沢賢治作『雪渡り』のアニメが教材として用いられた。アニメ鑑賞後、物語のメッセージについて作文させ、それぞれの意見を発表し、話し合いを持った後、友情論について作文させるという手順で行われた。その結果、時間をかけ導入が行われたEクラス(19名)と、導入はなされずアニメを見ただけのGクラス(14名)の作文には、内容に明らかな差異が見られ、Eクラスの方が教師のねらいに沿った内容の作文を書いていることがわかった。また、話し合いの際、アニメを自分に共通する異文化の問題として捉え直している学生がいる一方で、頭の中だけで理論的に捉えている学生の存在も確認された。また、母国で受けてきた教育の違いのためか、討論することに慣れている学生と不慣れな学生の存在が明らかになった。以上のことから、留学生に対する「異文化」をテーマにした授業で重要なこととして、①権威的雰囲気を取り除く工夫(教師は学生の意見を独断的に評価しない)、②教材選択・テーマ選択の工夫(経験をもとに討論に参加できる工夫)、③「参加感」を高める(ファシリテーターとしての能力を磨く)、という3つの指針が示された。そして、今後の課題として、物語を自分のことに反映して捉えることができる「メタ解釈能力」を促し物語を自らの現実に置き換えられるような導入とはどのようなものか、「メタ解釈能力」と言語能力とはどのような関係にあるのか、「メタ解釈能力」は測定可能か、という3点が挙げられ、発表が締めくくられた。
谷之口氏の発表の後、十分な質疑応答・討論の時間が設けられ、実践授業が行われたクラスの詳細や授業内容の詳細が質問されたり、文化の捉え方についての討論が行われたりした。
今回の研究会は、間際になって開催が決定されたため、外部からの参加者はなく、九州大学関係者のみの参加であったが、多文化関係学会の会員以外で専門分野も異なる参加者もあり、多角的な視点から様々な意見が交わされた。

文責:古谷真希(九州大学)