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全国の地区別研究会のご紹介

Introduction of regional study groups in Japan

関東地区研究会

2008年度第1回 関東地区研究会・ホラロジーの会報告

場所: 青山学院大学

関東地区研究会: 「多文化組織における日本人リーダーのコミュニケーション行動:フォロワーの視点に対するライフストーリー・インタビューを中心にして」
話題提供者:
石黒武人氏(明海大学外国語学部英米語学科専任講師)

今回の関東地区研究会は、ホラロジーの会とのジョイントという形で実施され、非常に活発な議論が展開された。以下に石黒武人先生の研究発表の概要と感想を述べる。石黒氏の発表は、研究テーマ、研究目的、研究方法、調査結果・考察、説明モデルの提示、研究の評価・限界及び今後の課題という段取りを踏み、非常に論理的かつ丁寧に進められた。本研究は、多文化組織における日本人リーダーのコミュニケーション行動の傾向性を、英会話学校・英語学校という場を用い、異文化出身フォロワーの視点から検証された質的研究である。研究方法は、フォロワーの認識世界に接近するという観点から対話的構築主義に基づいたライフストーリー・インタビューが適用されている。この研究方法は、個人の語りを記述し、語りにおける解釈の規則を明らかにする性質がある。結果、フォロワーの視点からすると、日本人リーダーのコミュニケーション行動が異文化出身フォロワーとの分離を助長する傾向があると提示された。石黒氏は、これらのコミュニケーション行動は、異文化出身フォロワーの日本人リーダーに対する「違和感」と「不信感」を誘発し、その関係性に落差と深刻なコミュニケーションギャップが存在するとも指摘された。  本研究は、健全な理論的枠組みに裏打ちされた質の高いものであるが、私自身は、先ず石黒氏の研究者としての真摯な姿勢と熱意ある語り口に非常に感銘を受けた。本研究のような人の認識世界を研究データとして扱う場合、研究者の自分を見つめる批判的視線だけでなく、地道で丁寧な分析作業が必須になると思われる。石黒氏の分厚い研究資料と発表の背後にある長い努力を垣間見ながら、彼の研究者としての高い資質を感じ、私自身非常に刺激を受けた。また、研究内容、研究方法、研究アプローチなどに関する多様な質問とコメントが参加者と交わされたことも、知的好奇心を刺激する質の高い発表であったことを物語っていた。
文責: 坂井二郎(立教大学)

ホラロジーの会:多元化する医療と多文化化する医療:医療におけるコミュニケーションの問題の批判的再考
話題提供者:
岡部大祐氏(青山学院大学国際コミュニケーション専攻博士後期課程/同大学総合研究所特別研究員)

患者として、研究者として、医療でのコミュニケーションの問題にどう向き合うか――。この日の話題は、“研究対象との距離”という微妙で、かつ基本的な問題を軸に展開された。
開口一番、「研究会というなかば公開の場で体験を発表することは、個人的にはリスクを伴う実験的な試みでもある」と語った岡部氏。医療現場に身を置く患者の目線を基本に据えながら、1)言葉の視点、2)文化の視点、3)社会の視点から医療におけるコミュニケーションの問題についての考察を披露した。
例えば、1)言葉の視点に関しては、抗がん剤による苦しい治療過程で発せられた看護婦からの一人称単数の慰めの言葉(「私も祈りますから・・・」)の効果が、一人称複数(「私たちも祈りますから・・・」)といかに異なるのかに気付き、言語に焦点を当てる重要性を感じたという。また、3)社会の視点からは、「医療」は社会的構成物として、社会的な文脈の中で再定義されるべきだと強調した。医療が社会的であることを踏まえ、患者は批判されにくいのに医療現場に対しては一方的な批判が起きやすい現象を紹介しながら、医療現場と研究者とが協力しながら理論構築することへの期待も示した。
「研究者」としての立場、「当事者」としての立場にどう向き合うべきかというテーマだけに、フロアーからも参加者自身の経験を踏まえたコメントや質問が多く出されたが、岡部氏本人はこう答えている。「当事者としての経験は避けられない。でも、それを前面に出した関わり方はしない」。
紹介された3つの視点はいずれも興味深かったが、個人的には1)の「言葉の視点」が最も印象的だった。蒲柳の質ゆえに、留学・出張・旅行先でたびたび短期の患者として現地の医療行為を受けた体験からも、言語の視点から考えるべき問題がまだ潜んでいるように感じられるためである。
文責: 可部繁三郎(青山学院大学)