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全国の地区別研究会のご紹介

Introduction of regional study groups in Japan

九州地区研究会

2007年度第1回 九州地区研究会報告

会場: 九州大学六本松地区キャンパス本館2F第3会議室にて開催(参加者: 14名)

(1)「異文化間における対人関係価値志向性の多角的分析–滞日留学生と日本人学生の人間関係の改善に向けて–」
話題提供者:
谷之口 博美(山口大学国際センターJ-cat研究室勤務。日本語教育、異文化コミュニケーション)

本研究は日本に滞在する留学生と日本人学生との間で友人形成が難しいという現実を踏まえて、それがお互いの価値観の違いによるものだと仮定し、その相違を明らかにする「対人関係価値尺度」を作成し、調査を行ったものである。発表は先行研究の説明に時間がとられ、留学生問題や価値観についてのこれまでの研究について丁寧に説明された。しかしその後調査の結果に飛んでしまい、後の質疑応答では「プロセスが分かりにくい」という批判も出ていた。
調査の結果からは、日本人の対人関係価値志向である「傍系=直系>個人」の、特に「傍系=直系」という、二つの価値志向性が混在した複雑さを留学生が読み取ることが出来ていないことが明らかになった。さらに「日本人観」のみならず「自国での価値観」と「日本での行動」についても同項目で調査したところ、自国での価値観には二つの価値志向性が混在する「二価値混在型」が存在し、しかも多数派を占めていたことがわかった。また、「単一価値志向型」よりも「二価値混在型」の方が日本人観に整合性が見られた。ここに両者の認識の差が示されたことになる。
今後はデータの数を増やし、検定をかけてみることによって各項目を特定してゆき、尺度作成にむけて研究を続けたいということであった。

(2)「多文化社会論の課題としての帰属心」
話題提供者:
石松 弘幸(福岡大学経済学部、福岡教育大学非常勤講師。政治理論、多文化社会論)

本発表では、チャールズ・テイラーやウィル・キムリカなどの多文化主義論とスーザン・メンダスの寛容論が紹介され、その意義と問題点について検討された。そして社会への帰属心という論点が今後の多文化社会論の理論的課題として提起された。テイラーやキムリカの行った多文化主義論の意義は、アイデンティティにとっての文化の重要性を指摘したこと、その尊厳の保証を試みたことにあるという。続いてスーザン・メンダスの寛容についての議論が検討された。メンダスは寛容の理念についてJSミルとジョン・ロックの議論を対比して考察し、ロックの社会統治のための合理性に立脚した寛容論を、自律を基調とするミルの自由論・寛容論より高く評価する。しかし、複数の文化が共存する今日の社会において、異文化・他者への寛容という理念そのものが、その内に寛容の対象となる他者=よくない存在・様式という了解を含むゆえに、適切なものではない。また、上の多文化主義論者の議論についても、多文化社会全体への帰属心という課題の実現という点では不十分である。なぜなら、多文化主義的措置によって、個々の文化共同体内での帰属心が実現されたとしても、他の文化集団との間に反目が存在すれば、多文化の共存する社会全体への帰属心は達成されない可能性があるからだ。こうして、多文化社会において解決すべき問題としての社会全体への帰属心という論点が提起され、そのために必要な新たな理念の必要性について言及がなされた。
今回は九州地区で二回目の研究会だったが、わざわざ山口や長崎からも駆けつけてくださったので、前回よりも賑やかな会合だった。発表のテーマ・分野は、全く異なってはいたが、参加者たちはそれぞれの発表に真剣に耳を傾けて、研究の方法や概念・用語の使用について質問を投げかけていた。いずれにしても、学ぶことの多い充実した研究会となったが、惜しむらくは二次会の参加者が少なかったことである。
文責:谷之口博美・石松弘幸