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全国の地区別研究会のご紹介

Introduction of regional study groups in Japan

関東地区研究会

2007年度第1回 関東地区研究会報告

慶應義塾大学三田キャンパスにて開催(参加者30名弱)
「ヴェトナム文化を考える・語る」

(1)「ハノイの路地のエスノグラフィー:動きながら関わりながら識る異文化の生活世界」
話題提供者:伊藤哲司氏(茨城大学人文学部人文コミュニケーション学科教授)

(2)「ヴェトナム人の多文化接触:メンタルヘルス概念と女性の通過儀礼の変容」
話題提供者:鵜川晃氏(武蔵野大学人間社会・文化研究科博士課程後期2年生)

伊藤氏は、1998年ヴェトナム在外研究中のフィールワークについて、路地風景の写真や、図などを多用し、親しみやすい語り口で参加者を心地よく引き込む発表をされた。
家を借り住み始めた路地が、通行のためだけでなく、人々の生活の魅力的な場であることの発見から始まるお話でした。当初の「言葉の壁」が、それをものともしない当時2才の娘さんが、斜向かいの雑貨屋に出入りし強力な研究媒介者となり、ヴェトナム人の日常に自然とかかわりをもち、最後には、日本語・ベトナム語でエスノグラフィーを出版され、外国人から見たハノイの路地を描いたその本は、ハノイの人たちの関心をも大いに集めたとのことです。
こうして、異文化を「動きながら関わりながら識る」ことをご自身が実践され、その重要性を何度も強調されました。「客観的に観察をする」研究に対し、フィールドの人たちと積極的に関わり交わることを、半ば楽しみつつ、そこで識りうることを大事にしていく氏の研究姿勢が、鮮明に実感されました。
私の幼稚園教諭としての20年の間には、国外から来日し、母語とは違う環境で園生活を始める子もいます。初日、身動きもせず周りの様子を見ていて「泣き出してしまうかな?」と心配するのですが、しばらくすると好きな遊具を見つけ、遊び仲間に加わり、うなずいたりまねたりし始めます。「言葉の壁」を越えて遊ぶパワーに驚かされます。こうした私の経験と重ね合わせ、多様な文化に、動き、関わることの大切さをあらためて感じ、また、将来子どもたちが様々な人々と共生できる基盤をもてるよう、多文化を体験する保育の工夫をしていきたいと感じた研究会でした。
文責:高橋順子(東京都千代田区立九段幼稚園)

鵜川氏は、ご自身がかかわられた近年の二つの調査、1.べトナム人女性の妊娠・出産・産褥期に見られる通過儀礼がベトナムとの比較で、移住先の日本とカナダでどう変容したのか、 そして2.これら三国における、アルコール依存、うつ、統合失調症についての原因帰属をめぐるメンタルヘルス概念と、援助探索行動とにどんな違いがみられるのかを、丁寧かつ明快に発表された。最後に、病気の概念や援助探索行動における文化変容として、表面的な変化や適応、また家族による違いにかかわらず、さまざまな慣習の中に自文化が伝承されているのではないか、例えるとキャベツのように普遍的な部分(芯)と、少しずつ移住先の文化に影響を受け変容をみせる部分(葉っぱ)があるのではという考えを、示された。
インドネシア難民という言葉が何を指し、それは日本でしか使われていないという事実、日本の難民受け入れ政策の変化などマクロな背景をはじめ、日本人に馴染みがうすいベトナム人、ラオス人等民族的マイノリティーが日本に生活し、氏やその研究グループでは、彼らの文化に沿う形でのメンタルヘルスの支援を模索しているという、多文化社会日本の、現実と課題の一端が明らかにされた。質疑応答では、言葉や文化の壁を越えて調査する若い研究者の方法論や思索の刺激になる多数の質問が、学会内外の参加者から寄せられ、活発なやり取りが展開された。聞き取り調査で文化葛藤などでの苦労の際に、メールや愚痴日記は書いたが、フィールドノーツをつけてなかったので、今後してみたいといったことまで、和やかに話される研究会であった。
文責:手塚千鶴子(慶應義塾大学)